ラーメン五百円

男は週末になると派遣のバイトで、光ファイバーの営業のようなものをしている。これがまたけっこう時給が高いから、だいたい週末はバイトを入れている。今週は横浜のほうの団地の集会所での仕事だった。


「あそこのラーメン屋うまいよ!食べてみな!」

昼飯を食べに行こうとしたとき、笑顔で団地の管理人がそう言ってきた。いい人そうな管理人の言うことだから信じてみてもいいかと思った。


言われた通りに歩を進めると、ファミレスの脇にその小さな店はあった。お世辞にもうまそうな店じゃなかった。それでも中にはいると常連らしき客二人と店主がなにやら世間話をしていた。もうこれは九割方ハズレだと思ったけど後で「うまかったか?」って管理人に聞かれそうだし、逆にこの雰囲気のくせしてすげえ旨いラーメンが出てきたら…!!とか変な期待があった。


飯は安くすませたかったのもあって、一番安い五百円のラーメンを頼んだ。店主が世間話をしながらもラーメンを作り始めた。手際はあまり良いとは思えなかった。それから少ししてラーメンがでてきた。


「はい、お待ちどうさん。」

見た目はまあ普通。もやしがのっかってて、チャーシューがやたら分厚い。最初にスープを飲もうとプラスチック製のレンゲを手に持ったが、レンゲの裏に書いてあった文字の凹凸の間に茶色い手垢みたいな汚れがこびり付いているのに気がついた。ちょうど、年期のはいったゲームボーイの裏側とかスーファミのコントローラーの凹凸にたまる手垢汚れに似てる。気持ち悪い。


終わってるな。と思いながらも次は麺をすする。麺にコシがない。茹ですぎだ。世間話なんかしてるからだ。イライラは募る。


まあ食べれないレベルではないし、後でお腹が空くのも嫌なのでスープも飲みつつ麺をすすっていると、だんだん舌がヒリヒリしてきた。味を変えようと手元のコショウやらニンニクやらで、この親父の味に逆らった。
親父は力のない目で世間話を続ける。そして最後の楽しみにと残しておいたチャーシューを口に運ぶ。


「堅いっ!!!!!」

こんな堅いチャーシューは久しぶりだ。というかこんな堅いうえに分厚いだなんてタチが悪い!!喰いちぎるようにチャーシューを噛み、口に運ぶ。堅いが故、歯にやたら肉が挟まる。ふざけてるぜこの店!!二度と来るか!!と思いながら”怒り”を”食べる”ことにぶつけて、早くこの店から出たかった。
そして器をだいたい空にして、上辺だけでもと思い「ごちそうさま!」と言って男は潔く店を飛び出した。




「お客さんっ!!お会計!!!」